高齢者問題

 

 

第0 はじめに

高齢者にかかわる法律問題としては,①相続問題,②高齢者を狙った消費者被害(訪問販売,リフォーム詐欺など),③認知症等に対する対応(成年後見制度,任意後見契約など)があります。

このうち,当HPでは,①については,「相続問題」のページ,②については,「消費者問題」のページでご紹介させていただいておりますので,このページでは,③認知症等に対する対応(成年後見制度,任意後見制度などに絞って,ご紹介させていただきます。

 

第1 成年後見制度

1 成年後見制度とは

精神上の障害(認知症,知的障害,その他の精神病など)により判断能力が不十分である方について,その生活全般における必要な意思決定を成年後見人等(親族や弁護士など)が代行・支援する制度です。

判断能力が不十分であると,自己に不利益な契約をしてしまったり,資産を浪費,散逸させてしまったりするおそれがあるので,本人の不十分な判断能力を補い,本人が損害を受けないようにする必要があります。そのような場合に,家庭裁判所に,成年後見開始の申し立てをし,親族や弁護士が成年後見人に就任することで,本人の代わりに意思決定をすることが可能となります。

2 成年後見制度でできること

⑴もしもの場合の予防策

事例

事例①

重大な統合失調症を患うAさんは,家を訪問してきた悪徳営業マンに長時間勧誘され,騙されて安物の壺を300万円で購入させられてしまった。

事例②

知的障害を持つBさんは,近所の人からいつもいいように使われ,これまでに総額300万円を贈与してしまった。

事例③

認知症を患うCさんは,身寄りがない。現在自分の持ち家に住んでいるが,今後の生活を考えれば,家を処分し,老人ホームに施設入所する方が望ましい状況である。

ア 成年後見制度を利用していない場合

日本の社会では,通常,契約をした場合はその契約に拘束されるのが大原則ですが,一方で,そもそも判断能力が全くないような状態で契約してしまった場合(意思無能力)や,勘違いで契約してしまった場合(錯誤),騙されて契約してしまった場合(詐欺)などにも契約が存続するとすれば,それは不公平です。

そこで,民法では,このような場合には,契約を無効にしたり,取り消すことを認めるルールが定められています。

しかし,相手方が契約の有効性を主張して争ってきた場合には,裁判において,意思無能力や錯誤,詐欺をこちらが証明する必要がありますが,それは必ずしも容易ではありません

例えば,高齢者の方でも,ある時には認知症によって判断能力が亡くなるが,ある時にはとても元気で,しっかりとした判断できるという状況はよくあります。その場合に,「契約時には認知症の症状が出ていて意思無能力であった」ということを証明するのはとても困難となります。

イ 成年後見制度を利用している場合

このような場合には,成年後見制度がとても有効となります。家庭裁判所の審判によってこの制度の利用が認められた場合,成年後見人等に選ばれた者には,本人を代理する権利や,本人の行おうとする行為(契約などを)に同意する権利,同意がないのに契約された場合に,その契約を取り消す権利などが認められます

例えば,事例①のAさん(「被成年後見人」といいます。)が営業マンとの契約の前に,成年後見の申し立てを行い,弁護士が成年後見人になっていたとします。その場合,成年後見の審判が開始していることを証明するだけで,契約の取消しが認められます。なぜなら,被成年後見人(Aさん)が成年後見人の同意なくして行った契約について,成年後見人には取消権が認められているからです。裁判において,意思無能力や錯誤,詐欺などの主張をする必要はありません。

このように,成年後見制度は,もしもの時のための予防策となるのです。

事例①②では,それぞれ成年後見人が売買契約,贈与契約を取り消すことにより,財産を取り戻すことが可能となります。事例③では,成年後見人がCさんを代理して,持ち家の売却,施設への入所契約をすることができます。

 ⑵日頃の財産管理

成年後見人には,上記で話したような権利が認められるほか,被成年後見人の身上を監護する義務も課されます。ですので,成年後見人は,日頃から(例えば月に1回など),被成年後見人の家に訪れるなどして,通帳に不審な出金はないか,家の状態が乱れていないか,体調は大丈夫かといったような,いわゆる「見守り」をすることになります。

このような見守りによって,高齢者の方々の損害を未然に防止し,安心して暮らせる生活状況を整えていくことができます。

 

3 成年後見制度の種類

成年後見制度は,本人の判断能力の不十分の程度によって,「後見」「保佐」「補助」の3種類があります。

利用される場面 成年後見人,保佐人,補助人の役割
後見 判断能力を「欠く状況」 広い範囲で,後見人に代理権や取り消し権が与えられる
保佐 判断能力を「著しく不十分な状況」 法律で定められた事項および特に認められた事項について代理権や取り消し権が与えられる。
補助 判断能力が「不十分な場合」 認められた事項についてのみ代理権や取り消し権が与えられる。

このように,いくつかの種類に分けられているのは「本人の自己決定の尊重」「本人の保護」のバランスをとるためです。

例えば,補助の場合,本人(「被補助人」といいます)にはある程度の判断能力がまだあります。そのような状況で,補助人がすべての事項について同意権と取消権を持つことになりますと,本人(被補助人)の自己決定権,すなわち,自分のことは自分で決める権利を侵害することになりかねません。ですので,補助人の権限は小さい範囲に定められています。

 

4 当事務所ができること・メリット

これらの制度(後見,保佐,補助)を利用するには,家庭裁判所に申し立てをする必要があります。申し立ては皆さん自身が行うことも可能ですが,当事務所では,みなさんが申し立てをするための助言や,申し立ての代行業務を行っております。

弁護士に助言を求めたり,申し立ての代行を依頼することで,以下のようなメリットがあると考えられます。

⑴適切な後見類型を見極める

成年後見制度には,先ほど話したように,「後見」「保佐」「補助」の3種類があります。本人の意思を最大限尊重しつつ,適切な財産管理を行うためには,どの類型で申し立てをするのか検討を要します。弁護士に相談していただければ,適切な類型での申立てについて助言やお手伝いをすることが可能です。

⑵適当な申立人がいない場合の対処

申立てができるのは,本人,配偶者及び4親等内の親族と定められています。これらの中に申立人がいない場合には,市町村長による申し立てを検討する必要があります。その際,弁護士が市町村の関係機関と交渉することで,申立が促されることになります。また,4親等内に申立人はいるが,その方が申し立てを拒んでいる場合,または本人の財産を勝手に使いこんだりしていて申立人として不適切な場合などには,今後の申し立て方法について弁護士が助言するなどのお手伝いをすることが可能です。

⑶適切な後見人を選んでもらう

誰が後見人(または保佐人,補助人)に選ばれるのかは,家庭裁判所の裁量に任されています。しかし,後見人に不適当な者がいる場合には,その者を選任候補者から外してもらうよう,自裁判所に上申することが必要です。例えば,これまで事実上財産管理を行ってきた者がいる場合にはその方が後見人に選任される可能性が比較的高いですが,その方に財産の浪費や横領の疑いがある場合などには,裁判所に上申して,選任候補者の中から外してもらう必要があります。このような場合,弁護士に相談していただければ,裁判所への上申のお手伝いをすることが可能です。

⑷事務処理を代行する

成年後見の申し立てをするには,財産目録の作成,収入についての資料提出,不動産についての資料提出,生命保険等についての資料提出,負債についての資料提出,成年後見登記なきことの証明書の提出,診断書作成依頼など,様々な事務作業が必要となります。

弁護士に相談していただければ,こういった面倒な作業について弁護士がお手伝いすることが可能です。

 

 5 費用

⑴費用総額

ア 弁護士に支払う費用

・申立ての代行業務を頼んだ場合

基本10万円+実費(戸籍謄本の取り寄せ費用など)。ただ,申立前の保全が必要な案件や,財産額が大きい案件など,特別な事情がある場合には,別途協議の上,増額させていただくことがあります。

・相談のみの場合

30分3000円で対応致します。

イ 裁判所に納める費用

①申し立て手数料:800円~2400円

②切手代:4000円程度

③登記費用:2600円

④鑑定費用:約5万~10万円(不要となる場合もあります)

⑵民事扶助制度の利用

民事扶助制度とは,収入・資産が少なく,申し立て費用をすぐに用意できない方のために,日本司法支援センター(法テラス)が,必要な申し立て費用(弁護委費用を含む)を立て替えて支払ってくれる制度です。

立て替えてくれる範囲は,実費代として2万円,弁護士費用として6万3000円から10万5000円,鑑定が必要な場合の鑑定料とされております。

もっとも,あくまで法テラスは立替払をしてくれるだけですので,後日,月々の分割払い(例えば,月5000円の24回払いなど)などで,法テラスに返済していく必要があります。

⑶成年後見制度利用支援事業

この制度は,費用負担が困難な方のために,国または市町村が,申立費用,登記手数料,鑑定費用や成年後見人等の報酬の全部または一部について助成をする制度です。

もっとも,市町村によっては利用ができない場合がございます。お住まいの地域で,同助成金が利用できるかどうか不明な場合は,当事務所までご相談ください。

 

第2 任意後見制度

1 任意後見制度とは

判断能力 後見人等の選任・後見人等の権限 見守る人
法定後見制度 既に判断能力を欠く (又は「著しく不十分」・「不十分」) ・家庭裁判所が選ぶ

・成年後見人の権限は基本的に法律で定められている

・成年後見人(家庭裁判所が監督)
任意後見制度 現在は判断能力がある(将来,不十分となった時に開始する) ・自分で選べる

・任意後見人の権限を契約で定めることができる

・任意後見人

・任意後見監督人(任意後見人を監督する)

任意後見制度とは,本人が契約の締結に必要な判断能力を有している間に,将来自己の判断能力が不十分になった場合に備えて,「後見人(任意後見人)」と「後見事務の内容」を,自ら事前の契約によって定めておく制度をいいます。

次のような場合に,利用を検討する価値があります。

・今はまだ認知症にかかっていないが,将来認知症の症状が出てきたときに不安だ。

・現在身寄りがなく,将来認知症になった時に財産の管理や,葬儀をどうすればよいのか分からない

・将来認知症になった時に,後見人に就いてもらう人を自分の意思で決めておきたい。

 

2 法定後見制度との違い

・現在判断能力があるのか否か

法定後見制度は,現在既に判断能力を欠く状況にある人や判断能力が不十分な人について,その人に代わって財産管理をする後見人を選任する制度です。一方,任意後見制度は,今はまだ判断能力があるが,将来認知症にかかった時の生活が不安な人について,元気なうちに,将来のための後見人を選任しておく制度です。

・後見人を自由に選ぶことができるか

法定後見制度では,後見人は家庭裁判所が選ぶため,自分の好きなように決めることはできません。一方,任意後見制度の場合,自分の意思で,任意後見人になる人を選任することができますし,どのような事務を後見人に任せるのかも自由に決めることができます

・費用面

法定後見制度では,申立時以降にかかる費用としては,原則として法定後見人の経費と報酬のみです。一方,任意後見制度では,任意後見人の経費・報酬のほか,任意後見監督人の経費・報酬を支払う必要がある(任意後見人の報酬は,契約によって自由に定めることができます。一方,任意後見監督人の報酬は裁判所が決めることになります。)。

 

3 任意後見制度の3類型

任意後見制度の利用の仕方としては,以下のような3つのパターンに分類されます。

①将来型

現在のところ認知症もなく身体も元気で,何ら他人に財産管理を任せる必要はないが,将来判断能力が低下した場合に備えて,「任意後見契約」を締結しておくという方法。

②移行型

事例 現在母は80歳です。現在は判断能力がありますが,長生きすれば将来認知症にかかることは避けられません。そこで,将来認知症にかかった場合に備えて,将来母の財産を管理してくれる人を指定しておきたいと思っています。また,現在,母は足が悪く,外出することが困難な状況にあるので,日常的な金銭の管理をしてくれる人を今すぐ選任したいです。

この方法は,判断能力が低下していない現段階で,将来低下した場合に備えて,「任意後見契約」を締結するとともに,現在の財産管理も信頼できる他人に任せたい場合に使える。現在の財産管理の委任に関しては,「財産管理委任契約」を締結し,将来の財産管理については,「任意後見契約」を締結することになります。

③即効型

現在,任意後見契約を結ぶ判断能力はあるが,体調によっては判断能力に支障が出る恐れがある場合に,「任意後見契約」を締結し,直ぐにでも任意後見監督人の選任を裁判所に申し立てることによって,速やかに任意後見人による財産管理を開始する方法。

 

4 任意後見人は何をしてくれるのか

任意後見制度は,任意後見契約という契約を結ぶことによって財産管理を他人に委任する制度です。任意後見人に委任したい事項は,契約時に細かく定めることができます。したがって,預貯金の管理は任意後見人に任せるが,大事な自宅の処分については任せない,といった契約をすることも可能です。その他よく見られる委任内容としては以下のようなものがあります。

・公共料金や家賃の支払いをしてもらう

・施設入所をするための介護保険契約の締結,介護サービスの利用契約の締結をしてもらう

・相続手続(相続放棄や遺産分割)をしてもらう

・保険金の受け取りをしてもらう

・訴訟手続をしてもらう

・身上監護をしてもらう

※当事務所では,細かな代理権目録の一覧を用意しておりますので,それを見ながら,「この事務については任せる」「これは任せない」と決めていただければと思います。

 

5 費用

⑴契約時にかかる費用

公正証書の作成費用(1万1000円),登記嘱託手数料(1400円),印鑑証明書・戸籍謄本等の取得費用

⑵判断能力が不十分となった以降にかかる費用

ア 任意後見人に対する費用

任意後見契約による財産管理や身上監護等の後見事務にかかる費用(交通費,銀行手数料などの実費)や任意後見人に対する報酬は,任意後見人が管理する本人の財産から支出されることになります

イ 任意後見監督人に対する費用

裁判所が定めることになります。